企業が事業を継続するうえで避けて通れないのが法人税です。利益に応じて課税されるため、毎年の税負担をどのようにコントロールするかは経営上の大きな課題となります。適切な節税対策を講じることで、過大な税負担を避けられるだけでなく、資金繰りの安定や将来への投資にもつなげられるでしょう。
本記事では、法人の節税対策として実務上活用できる方法を20種類紹介します。役員報酬や福利厚生の活用といった基本的なものから、設備投資や税制優遇制度を利用する方法まで幅広く取り上げ、さらに実務上の注意点や税務調査を意識したポイントも解説します。自社の状況に合った取り組みを選び、正しい知識と計画に基づいた節税の実現を目指しましょう。
法人税とは企業の利益に応じて課税される税金のこと
法人税とは、株式会社や合同会社、医療法人、協同組合など、法人が事業活動で得た利益に課される国税です。売上から経費や損失を差し引いた所得が課税対象となり、会計上の利益をもとに法人税法の規定にしたがって調整したうえで最終的な税額が決まります。
申告・納付は、定款(ていかん)で定めた事業年度ごとに行い、事業年度終了後2か月以内が原則です。期限を過ぎると延滞税が課されるため、注意が必要です。
法人税率は資本金や所得金額に応じて区分され、中小企業には軽減税率が適用される場合があります。また、法人税だけでなく、地方税である法人住民税や法人事業税も合わせて納める必要があります。法人税、住民税、事業税をまとめて「法人税等」と呼び、実効税率は法人税単体より高くなるのが一般的です。
負担を適切に管理すれば、資金繰りや経営の安定につながります。法人税の仕組みを理解し、法令に沿った節税策を計画的に進めることが、企業経営の安定には不可欠です。
法人税の節税対策におすすめの方法を紹介
法人税の負担を抑えるには、法律で認められた適切な節税対策を計画的に活用しましょう。代表的な方法には、役員報酬や福利厚生、決算賞与の活用、設備投資や税制優遇制度の利用などがあります。それぞれの節税対策について詳しく解説します。
- 役員報酬を適正な額で継続的に支給する
- 条件を満たした決算賞与を損金として処理する
- 社宅制度を使って住宅費を経費にする
- 社員旅行や健康診断を福利厚生費として計上する
- 旅費日当を支給する
- 飲食費や交際費を要件を満たして経費にする
- 事業用の備品購入費を損金にする
- 取得価額30万円未満の資産を一括で即時損金算入できる特例
- 未払費用を正確に計上して損金算入する
- 未払金も年度内に忘れず処理する
- 繰越欠損金制度を使って赤字を活かす
- 決算期を調整して利益と税負担をならす
- 家賃を年払いにして前払費用として処理する
- 設備投資を即時償却できる制度を活用する
- 経営セーフティ共済を活用して損金にする
- 法人保険やリース取引で損金を確保する
- 税制優遇制度を活用して税額控除・軽減を受ける
- 不要な在庫や資産を処分して損金にする
- 自家用車を法人名義にして業務用経費にする
- 社用車を導入して減価償却と維持費を計上する
それぞれ順に解説いたします。
役員報酬を適正な額で継続的に支給する
役員報酬は、法人税法上の要件を満たせば損金として計上でき、法人の利益を調整できる代表的な節税手段です。主な形態には「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」があります。定期同額給与は毎月同じ日に同じ額を支給する給与で、多くの企業で採用されています。事前確定届出給与はあらかじめ支給時期と金額を届け出たものに限り損金算入できます。業績連動給与は主に上場企業など一定の要件を満たす法人に限られており、中小企業ではほとんど利用できません。
ただし、期中に不自然な増減があると損金算入が否認されるおそれがあるため、株主総会や取締役会で事前に決議を行い、議事録をきちんと残す必要があります。また、報酬額が過大と判断されれば損金算入を否認されるリスクも生じるため、同業他社の水準や企業の収益状況と比較しながら適正性を確保しなければなりません。
さらに、役員報酬を高く設定すれば法人税は軽減できますが、役員個人の所得税・住民税や社会保険料が増え、結果的に全体の税負担が重くなる場合もあります。逆に低すぎると法人税の負担が増えるだけでなく、役員自身の生活資金や金融機関からの信用にも影響しかねません。法人と個人の双方にとってバランスの取れた水準を見極め、専門家の助言を得ながら計画的に設計するのが望ましいでしょう。
条件を満たした決算賞与を損金として処理する
決算期末に賞与を支給する際は、一定の条件を満たせば当期の損金に算入できます。条件は次の3つです。
- 事業年度内に、支給対象となる従業員一人ひとりに支給額を通知していること
- 通知した金額を、決算日の翌日から1か月以内に支払っていること
- 通知した事業年度において損金経理を行っていること
これらの条件を満たせば、実際の支給が決算後であっても当期の経費として処理できます。業績が好調で利益が多く出そうなときに実施すれば、法人税の負担を抑えられるうえ、従業員への利益還元やモチベーション向上につながり、組織全体の活力を高める効果も期待できます。
一方で、決算賞与を支給すると一時的に手元資金が減るため、キャッシュフローへの影響を十分に考慮してください。さらに、一度導入すると「毎年支給されるもの」と従業員に認識され、翌年度以降も継続が求められるケースがあります。翌年度の利益計画や資金繰りも踏まえ、慎重に判断しましょう。
決算賞与は、節税効果と従業員満足度の向上を両立できる有効な手段であり、短期的な税負担の軽減だけでなく、中長期的な経営戦略に沿って計画的に活用すると効果的です。
社宅制度を使って住宅費を経費にする
法人が役員や従業員に社宅を貸与すると、家賃の一部を会社が負担することで住宅関連費用を経費計上でき、節税につながります。利用にあたっては、法人名義で賃貸物件を契約し、入居者から適正な家賃を受け取る必要があります。家賃設定が低すぎる場合は、従業員に対する現物給与とみなされ、課税対象となるため注意が必要です。
法人が支払った家賃は全額損金、入居者から受け取る家賃は収益として処理します。そのため、法人税計算上は「支払家賃 − 受取家賃」の差額が実質的に費用となります。例えば、家賃10万円の社宅に対して従業員が5万円を支払った場合、法人は10万円を損金、5万円を収益として計上し、結果として5万円が費用として残ります。法人・個人双方で税負担の軽減が期待できるうえ、従業員の福利厚生としてもメリットがあるのが特徴です。
また、会社の近くに物件を設定すれば通勤負担を軽減でき、業務効率の向上にも寄与します。社宅制度の活用は、節税と福利厚生の双方に貢献する有効な手段ですが、賃料設定や契約形態は国税庁の定める基準に沿って適正に行わなければなりません。
社員旅行や健康診断を福利厚生費として計上する
社員旅行や健康診断などは、一定の条件を満たせば福利厚生費として損金算入できます。社員全員を対象にすることや、費用が社会通念上相当と認められる範囲であることが要件となります。福利厚生の充実と節税を同時に実現できる手段です。
社員旅行
社員旅行は、モチベーション向上やチームビルディングに役立つ制度です。福利厚生費として計上するためには、次の条件を満たす必要があります。
- 旅行期間は原則4泊5日以内(海外旅行も含む)
- 参加者は全従業員の50%以上、または各部署など職場単位でおおむね全員が参加していること
- 内容が社会通念上妥当と認められる範囲であること
なお、研修旅行や社員合宿など業務に直接関係する場合は、旅費交通費として処理できますが、業務に直接関係のない旅行の場合は給与扱いとなり、源泉徴収が必要です。また、家族の費用は福利厚生費として計上できません。
健康診断
従業員の健康管理は企業運営において重要です。健康診断費用も条件を満たせば損金算入できます。条件は以下のとおりです。
- 全従業員を対象とした制度であること
- 企業が医療機関に直接費用を支払うこと
- 費用が社会通念上妥当な範囲であること
人間ドックについては、希望者全員を対象とする制度であれば福利厚生費として損金算入できます。ただし、特定の役員や一部の従業員のみを対象とした場合は給与課税となる可能性がある点に注意が必要です。オプション検査費用は従業員負担が原則です。
これらの条件を満たして社員旅行や健康診断を導入することで、節税対策だけでなく、社員の健康管理やチーム形成にも役立ちます。
旅費日当を支給する
出張の際に旅費日当を支給すれば、通常必要と認められる範囲であれば給与課税されず、法人側では経費として計上できます。支給基準を明確に定め、業務に必要な範囲で適切に運用する必要があります。
旅費日当は、出張中の食費や通信費、雑費などの補助として会社が支給する手当です。法人の場合、役員や従業員の出張にかかる日当は経費に計上可能で、法人税の節税につながります。また、支給を受ける側は所得税・住民税・社会保険料がかからないため、手取りが増えるメリットがあります。
旅費日当を経費として損金算入するためには、出張旅費規程の整備が欠かせません。規程に沿って、支給額が社会通念上妥当な範囲内であること、特定の役員や従業員だけが有利にならないことを確認します。また、同業他社の一般的な水準と著しくかけ離れていない点もポイントです。
例えば、1日あたり1万円の旅費日当を設定し、年間10日間出張があった場合、合計10万円を法人の経費として計上できます。ただし、金額が社会通念上高額すぎると給与課税される可能性があるため、同業他社の水準や社内規程との整合性を必ず確認する必要があります。出張が多い企業では、年間を通してまとまった費用を経費として処理でき、法人・個人双方の税負担軽減につながるのは大きなメリットです。
なお、出張費用として計上できるのは、交通費・宿泊費・現地での飲食費など、業務遂行に直接必要な支出に限られます。領収書や明細の保存を徹底し、支給額の妥当性を示せるようにしておくのも大切です。
飲食費や交際費を要件を満たして経費にする
取引先との会食や交際費は、事業遂行上必要な範囲であれば経費として損金算入できます。中小企業(資本金1億円以下)の場合、接待交際費については「年間800万円まで全額損金算入」または「接待飲食費の50%を損金算入」のいずれか有利な方を選択できます。
また、1人当たり1万円以下(税抜)の社外飲食費は交際費等から除外され、全額損金算入できます。ただし、参加者・日時・金額・目的などを記録した明細書を保存する必要があります。
交際費として認められるのはあくまで取引を円滑に進めるための費用であり、社内イベントや従業員同士の飲食費などは対象外です。また、企業規模によって損金算入できる上限が異なるため、自社の資本金や会食内容に応じた確認が必要です。
資本金の規模 | 損金算入できる範囲 |
1億円以下の中小企業 | 年間800万円まで、または接待飲食費の50% |
1億円超の企業 | 接待飲食費の50%まで |
100億円超の企業 | 全額損金算入不可(経費として認められない) |
経費として計上する際は、領収書や明細の保存を徹底し、利用目的を明確にしておくことで税務調査にもスムーズに対応できます。
事業用の備品購入費を損金にする
事業に必要な消耗品や少額備品の購入費用は、損金として計上できます。一般的に、取得価額が10万円未満の資産は「消耗品費」として購入年度に全額を経費処理できます。さらに、取得価額が20万円未満であれば「一括償却資産」として3年間で均等償却する方法も認められています。年度末に必要な備品を計画的に購入することで、法人税の節税効果を効率的に得られます。
対象となる備品は、パソコン用周辺機器、文房具、プリンタートナー、掃除用品など、事業で実際に使用する消耗品全般です。具体例として、200円のノートや5,000円のプリンタートナーも経費計上が可能です。郵便切手や収入印紙など、金銭的価値を持つものは購入時に「貯蔵品」として資産計上するのが原則です。ただし、期末に未使用分を残高計上し、使用した分を費用に振り替える処理を行えば経費算入できます。
購入した備品を経費として計上する際には、使用目的を事業用であることを明確にし、領収書や明細書の保管を徹底しましょう。年度末にまとめて購入すると、購入年度の課税所得を減らせるため、資金効率も向上します。また、購入計画を事前に立てておけば、必要な備品を無駄なく揃えながら、節税効果も最大化できます。
取得価額30万円未満の資産を一括で即時損金算入できる特例
中小企業では、「少額減価償却資産の特例」を活用することで、取得価額30万円未満の資産を購入した際に、年間合計300万円まで一括で損金算入できます。パソコンや事務機器など、比較的小規模な設備投資に適した制度です。
少額減価償却資産の特例を適用できるのは、青色申告法人で、かつ「中小企業者等」に該当する法人です。具体的には、資本金1億円以下で、資本金1億円超の法人に100%支配されていないなどの条件を満たす必要があります。従業員数の条件はなく、資本金基準が中心です。適用除外となる事業者もあるため、事前に確認しておきましょう。
通常、固定資産は耐用年数に応じて減価償却費として分割計上されますが、少額減価償却資産の特例を使えば購入年度に全額を経費として計上できるため、決算時の課税所得を大幅に減らせます。また、この特例を利用すれば、20万円以上30万円未満の資産も年間300万円の限度内であれば即時に経費計上できます。通常のルールでは、10万円以上20万円未満の資産は「一括償却資産」として3年間で均等償却、20万円以上は法定耐用年数に応じて償却となります。
年度末に必要な資産を計画的に購入することで、資金効率を高めつつ、法人税の節税効果を最大化できます。購入の際には、使用目的や領収書の保管も徹底しましょう。
未払費用を正確に計上して損金算入する
決算期に未払いとなっている費用は、正しく計上すれば当期の損金として扱えます。計上漏れがあると、不要に課税所得が増えるため注意が必要です。
未払費用は、事業年度内に発生した費用のうち、実際の支払いが来期以降になるものを指します。具体例としては、通信費、設備のリース料、固定資産税、社会保険料の会社負担分などが該当します。なお、給与や賞与については「未払費用」ではなく「未払金」として処理するのが通常です(決算賞与は別途規定あり)。
未払費用を当期の費用として計上することで、課税所得を減らせるため、法人税の節税につながります。支払いの有無にかかわらず、対象サービスの提供や物品の引き渡しが完了しているものは、会計上、当期に計上するのが原則です。
決算時には、費用の発生時期に合わせて漏れなく未払費用を計上できるか確認しましょう。当期の利益を実態に即した金額に抑えつつ、法人税の負担を適切に管理できます。また、計上漏れによる追加課税のリスクも回避可能です。
未払金も年度内に忘れず処理する
商品やサービスを受け取ったにもかかわらず、代金をまだ支払っていない場合は、未払金として計上できます。計上漏れがあると当期の課税所得が過大になり、不要な法人税負担につながるため注意が必要です。
未払金の対象には、仕入れ代金や外注費など、物品購入や役務提供の対価が未払いとなっているものが含まれます。一方、リース料や光熱費など継続的に発生する費用は「未払費用」として処理するのが通常です。正確に処理するには、受領や利用が完了していることを確認したうえで計上し、請求書や契約書などの書類を整理・保管しておきましょう。
年度内に発生する未払金の具体例は以下のとおりです。
- 12月に納品された商品の代金が翌1月支払いの場合
- 年末に受けた外注業務の報酬が翌年1月支払いの場合
- 年度内に利用したリースや光熱費の支払いが翌期の場合
これらの未払金を決算期に正しく計上すれば、決算書の精度向上や税負担の適切な管理、翌期の資金繰り計画に役立ちます。
繰越欠損金制度を使って赤字を活かす
過去の赤字(欠損金)を翌年度以降の黒字と相殺できる「繰越欠損金制度」を活用すると、法人税の負担を抑えつつ、資金繰り計画の安定にもつながります。法人の場合、青色申告をしていれば最長10年間、赤字を繰り越せます。ただし、中小法人等(資本金1億円以下など)は所得の100%まで控除できますが、それ以外の法人は50%が限度となります。赤字を無駄にせず、将来の税負担を軽減するのに役立つ制度です。
また、法人税法上の要件を満たせば「欠損金の繰戻しによる還付」を受けられます。ただし、原則として中小法人等のみが対象です。具体的には、前年度に黒字があり法人税を納めていること、青色申告を行っていることなどが条件です。赤字となった年度に前年度の黒字と相殺して法人税を再計算し、すでに納めた法人税の一部が還付される仕組みです。
繰越欠損金や繰戻しの活用は、節税の基本的な手段といえます。決算時には赤字状況や繰越期間を確認し、計画的に利益を見越した対策を行いましょう。
決算期を調整して利益と税負担をならす
事業年度の決算期を変更すると、売上や経費の計上タイミングを調整でき、課税所得の変動を安定させられます。例えば、売上が集中する月や大きな支出のある月を決算期に含めることで、年度ごとの法人税負担を平準化できます。
決算期の変更は資金繰りや節税の面で有効ですが、頻繁な変更は税務上認められません。事業の実態に沿った期間で計画的に検討する必要があります。
決算期を変更する代表的なケースは以下のとおりです。
- 売上の大部分が年末に集中する場合、決算期をずらして課税所得を平準化する
- 設備投資や広告費などの支出が大きい月を決算期に含め、経費計上のタイミングを調整する
- 複数年度にまたがる契約やリース料の計上時期を調整し、年度間の利益変動を抑える
決算期を変更する際は、株主総会等での定款変更決議が必要で、その後「事業年度等変更届出書」を税務署に提出する必要があります。事前に会計士や税理士に相談すれば安心で、利益の安定化や税負担の平準化につながります。また、資金繰りや経営計画の精度向上にも役立ちます。
家賃を年払いにして前払費用として処理する
短期前払費用の特例を利用すれば、1年以内に提供を受けるサービスへの支払いを一括で損金算入できます。事務所や店舗の家賃を年払いにすることで、資金に余裕がある年度の節税や資金繰りの調整につながります。
短期前払費用の特例は、1年以内に提供を受ける役務の前払いであること、かつ年払い契約を結び、毎期継続して同じ処理を行うことが前提です。初年度に大きな節税効果が得られる一方で、翌年度以降も同じ支払いパターンを維持する必要があります。
収益に対応する費用や一時的な利益操作を目的とする支払いは認められないため、契約書の記載内容や会計処理を税理士と確認しながら進めると安心でしょう。
設備投資を即時償却できる制度を活用する
中小企業投資促進税制(2025年3月31日取得分まで)や中小企業経営強化税制(2027年3月31日取得分まで)を利用すれば、対象となる一定の設備投資について「即時償却」や「特別控除」が可能です。老朽化した設備の入れ替えや生産効率を高めるための導入といったタイミングで活用すれば、節税効果と業務改善を同時に狙えます。ただし、対象設備の種類や金額要件が制度ごとに定められており、経営力向上計画の認定などの手続きも必要です。
通常の減価償却では、取得価額を耐用年数に応じて数年にわたり分割して経費化する仕組みです。一方、即時償却では設備を取得した事業年度に、取得価額の全額を経費として計上できます。その結果、当期の課税所得を大きく圧縮でき、法人税の負担を抑えられる点が大きなメリットです。
ただし、適用を受けるには経営力向上計画の認定など、事前の手続きや税務申告時の書類提出が必要となります。要件を満たさない場合は認められないため、導入を検討する際は条件や必要手続きを確認し、早めに税理士などの専門家へ相談するとよいでしょう。
経営セーフティ共済を活用して損金にする
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)は、取引先倒産などのリスクに備えられる制度で、掛金は全額損金算入できます。利益が出ている法人が余剰資金の範囲で掛金を拠出すれば、節税効果を得つつ、事業の安定性も高められます。
掛金は月額5,000円~20万円の範囲で自由に設定でき、年間最大で240万円まで損金として計上可能です。さらに、前納によって翌年分の掛金をまとめて支払えば、追加で費用計上できるため、節税効果を高められます。
積み立てた掛金は解約時に解約手当金として受け取れますが、受け取った時点で益金算入(課税対象)となるため、解約タイミングの検討が重要です。無担保・無保証人で、掛金の10倍(上限8,000万円)まで借入が可能ですが、借入はあくまで共済貸付であり、返済義務がある点に注意が必要です。
経営セーフティ共済は、節税だけでなく、リスクヘッジや資金調達の手段としても有効な制度です。掛金の設定や前納・解約のタイミングを工夫することで、より効果的に資金計画と節税対策に活かせます。
法人保険やリース取引で損金を確保する
法人保険の保険料やリース料は、条件を満たせば損金算入が可能です。ただし、節税効果だけに注目すると、将来の解約返戻金や費用負担が経営に影響する可能性があるため、慎重な検討が求められます。
法人向け生命保険では、契約内容に応じて保険料の一部または全額を損金算入できる場合があります。ただし、2019年の税制改正以降、節税目的の定期保険や逓増定期保険などは原則として損金算入が制限されているため、契約内容を慎重に確認する必要があります。社長を被保険者とし、保険金や給付金の受取人を法人とする契約などが該当します。損害保険の場合は、事故や災害への補償を目的とするため、支払保険料の全額を経費として扱えることも少なくありません。
リース取引も同様に、条件に沿えばリース料を損金として計上可能です。通常のファイナンス・リース取引では資産計上+減価償却となりますが、中小企業では税務上「リース料全額を経費」とできる取扱いが認められているケースがあります。設備や車両など、企業が必要とする資産の取得に伴う費用を計画的に経費化できるため、資金繰りや節税対策の一環として活用できます。
税制優遇制度を活用して税額控除・軽減を受ける
研究開発税制や中小企業投資促進税制など、国が設ける各種の税制優遇制度を活用すれば、税額控除や税負担の軽減が期待できます。自社の事業内容や投資計画が制度の対象に該当するかを確認し、積極的に利用するとよいでしょう。
例えば、中小企業投資促進税制(2025年3月31日取得分まで)では、対象設備への投資について特別控除が認められており、トータルでの節税効果が期待できます。また、設備投資の際に選択できる「即時償却」または「税額控除」を活用することで、投下した資金をより早く回収でき、資金繰りや利益計画の安定にもつながります。
ケースバイケースで制度を比較し、最も自社に有利な方法を選択するのが望ましいです。
不要な在庫や資産を処分して損金にする
売れ残った在庫や使われていない資産を処分すれば、損失を計上して節税につなげられます。棚卸資産の評価損や固定資産の除却損など、適切な会計処理を行うことが重要です。
在庫を原価より安く売却した場合は売却損、廃棄処分した場合は除却損として損金に算入できます。また、在庫の評価額が下がった場合でも、通常の市価下落では評価損を計上できません。災害や著しい陳腐化など、税務上認められた特別の事情がある場合に限り評価損を計上可能です。損金算入には一定の基準や証明書類の提出が求められるため、事前に確認しておく必要があります。
例えば、決算期に合わせて不良在庫を「決算セール」として原価割れで販売すれば、その分の利益を圧縮できます。さらに、販売によって手元に資金が入れば、売れ筋商品の仕入れに回すなど資金運用の効率化にも役立つでしょう。原価より少しでも高く売却できれば、損失を抑えつつ資金回収に活かすことも可能です。
不要な固定資産も同様に整理できますが、除却損として計上するためには、実際に使用を廃止し、除却処分を行ったことを証明できる必要があります。加えて、在庫や資産の整理は金融機関からの評価にも好影響を与えるため、資金調達面でもメリットがあります。
このように、定期的に在庫や資産を見直すことで、節税効果と経営効率の向上を同時に狙える方法といえるでしょう。
自家用車を法人名義にして業務用経費にする
自家用車を法人名義に変更すると、車両の取得費用や維持費、燃料費、保険料、車検費用、高速道路料金などを法人経費として計上できます。個人で所有していた自家用車を法人に名義変更する場合は、時価(中古車としての評価額)を基準に法人が資産計上し、そこから減価償却を行います。過去に個人で使用していた期間の減価償却を法人で引き継ぐことはできません。
社用車をプライベートでも使用する場合は、業務使用割合を明確に定め、利用規程を作成すると安心です。必要に応じて一定の利用料を会社に支払うルールを設けることで、経費として認められる範囲を適切に管理できます。税務上のリスクを回避しながら、経費計上の効率化も図れるのは大きな魅力です。
法人名義での車両所有は、単なる節税手段にとどまらず、車両管理や経費管理の透明化にもつながります。購入や維持費の計画を立て、業務利用の範囲や割合を明確化すれば、資金繰りや利益計画の安定化に役立つでしょう。また、法人経費として計上できる範囲を最大化することで、税負担の軽減と経営効率の向上を同時に実現できます。
社用車を導入して減価償却と維持費を計上する
新たに社用車を導入すると、車両の購入費や減価償却費、ガソリン代、保険料、車検費用、駐車場代などを法人経費として計上できます。営業活動や拠点間移動、商品配送など、業務上で必要な車両であれば、業務効率を高めつつ節税にもつなげられます。
車両の取得方法に応じて、費用の計上方法は異なるため注意が必要です。新車の場合は耐用年数(普通車6年、軽自動車4年)に応じて減価償却します。中古車の場合は以下の計算式で耐用年数を求め、車両運搬具として経費に算入できます。
・使用されていた年数が法定耐用年数を超過している場合
→ 法定耐用年数 × 20%
・使用されていた年数が法定耐用年数に満たない場合
→ (法定耐用年数 − 経過年数)+ 経過年数 × 20%
例えば、法定耐用年数6年の中古普通車を3年間使用した場合、耐用年数は(6 − 3)+(3 × 0.2)=3.6年となります。耐用年数に小数が出た場合、通常は端数を切り捨てて整数年で処理します(この場合は3年)。リースやローンを利用する場合も、契約内容に応じて経費計上が可能です。
不要な車両を導入すると資金繰りに影響するため、会社の規模や事業内容に見合った台数・使用形態を計画するようにしましょう。
節税を適正に行うための注意点と税務上のポイント
節税を行う際には、単に税金を減らすことだけを目的にせず、将来的なリスクや資金繰りへの影響、経営上の支障なども考慮する必要があります。会計・実務面と経営・戦略面の両方の観点から、適正な節税を行うための注意点や税務上のポイントを解説します。
会計・実務面の注意点
節税策を実務に落とし込む際には、会計処理や書類管理の正確さが極めて重要です。いかに有効な節税方法であっても、帳簿や証憑の不備があれば損金算入が認められない場合や、税務調査で否認されるリスクが生じます。こうした事態を防ぐためにも、まずは会計・実務面で押さえておくべき基本ポイントを確認していきましょう。
損金処理に必要な要件を正しく理解しておく
損金として計上できる経費には法律や会計ルール上の要件があります。必要書類の保存や取引の実態が確認できない場合、税務調査で否認されるリスクが生じるため、グレーゾーンの処理には特に注意が必要です。
節税は単なる税負担の軽減ではなく、企業の成長や信用を支える戦略の一環でもあります。従業員の福利厚生や設備投資の効率化など、企業価値向上につながる施策を優先的に検討することが大切です。
そのため、ルールに沿った会計処理と書類管理を徹底し、適正な節税策を計画的に実行することで、税務リスクを最小化しつつ経営効率や資金繰りの改善につなげられます。
節税を行う際は会計処理と書類保存を徹底する
節税策を実施する場合、帳簿や領収書の整理、計算根拠の明確化が不可欠です。不明確な会計処理や証拠書類の欠如は、税務署から指摘され、場合によってはペナルティの対象となる可能性があります。そのため、日常的に整理・保管のルールを徹底し、一時的な節税だけでなく、継続的かつ計画的な節税対策を意識しなければなりません。
具体的には、経費の内容や支出日、取引先、金額を明確に帳簿に記録し、領収書や契約書などの証憑を整理・保管するのが基本です。また、年度ごとの計算根拠や経費算定方法を社内で統一しておくことで、税務調査の際にも説明がスムーズになります。
こうした継続的な実務管理は、節税効果を最大化すると同時に、経営の透明性や企業の信用力向上にもつながります。
税務調査に備えて説明責任を果たせる体制を整える
節税策の内容や根拠について、税務署から説明を求められることがあります。担当者が不在の場合でも適切に対応できるよう、社内で過去の申告書や会計記録、節税根拠の文書化を共有し、誰でも確認・説明できる体制の整備が欠かせません。
具体的には、節税策の根拠となる法律や通達、専門家の意見を文書化しておき、必要書類を整理・保管しておくのがポイントです。また、税務調査時の対応フローや担当者の役割分担を明確にしておくと、迅速かつ正確な説明が可能になります。こうした準備を徹底することで、税務リスクを最小化し、経営の透明性や企業の信用力向上にもつなげられます。
経営・戦略面の注意点
節税を実施する際は、単に税額を減らすだけでなく、経営全体への影響も考慮する必要があります。資金繰りや金融機関評価、将来の納税額など、節税がもたらす経営上のリスクを把握したうえで計画的に進めることが、健全な経営と安定した資金運用につながります。節税を実務に落とし込む際に注意すべきポイントを見ていきましょう。
節税により資金繰りが悪化する可能性がある
経費計上や設備投資は節税に役立ちますが、同時に現金の支出を伴います。税金が減ったとしても、手元資金が不足して事業資金に余裕がなくなれば、本末転倒といえるでしょう。特に中小企業では資金繰りが経営の安定性に直結するため、節税対策を行う際にはキャッシュフローを把握し、資金計画を事前に整えておく必要があります。
また、決算期が近づくと「とりあえず経費を増やそう」として、効果の薄い接待や必要以上の消耗品購入を行うケースが少なくありません。こうした対応は一時的に税負担を軽減できても、結果的に企業の経営基盤を弱めるリスクがあります。節税の本来の目的は、課税所得を減らすこと自体ではなく、キャッシュフローを改善し、長期的な経営の安定や成長につなげることにあるのです。
そのため、支出を伴う節税策を実行する際は「節税以外にどのような効果が得られるか」を見極めなければなりません。設備投資や備品の購入であれば、生産性向上や業務効率化といった具体的なメリットが見込めるかを検討しましょう。税務上のメリットと事業効果の双方を実現できる施策こそが、真に有効な節税対策といえます。
節税によって金融機関からの評価が下がることがある
意図的に利益を圧縮する節税策は、税負担の軽減には有効ですが、金融機関からの評価に影響を与える可能性があります。利益が減少していると判断されると、融資審査で不利な条件を提示されたり、希望するタイミングでの資金調達が難しくなったりするリスクがあります。また、信用格付けや借入限度額の評価にも影響する場合があるため、節税のみに注目するのは避けるべきです。
資金調達や事業拡大を予定している場合は、節税策を実行する前に、利益圧縮の影響をシミュレーションしておくと安心です。具体的には、過去の決算データやキャッシュフローをもとに、融資審査で想定される指標(自己資本比率や利益率など)への影響を確認し、必要に応じて節税策のタイミングや規模を調整します。
節税による税負担軽減だけでなく、金融機関評価や資金繰りへの影響も含めて総合的に判断することが、企業の健全な財務運営と将来的な成長戦略を支えるポイントです。
社会保険料の負担が増えるケースもある
役員報酬や従業員の給与を調整して節税を行う場合、所得額に応じて社会保険料の負担が増加する可能性があります。節税によって法人税は減っても、社会保険料の増加分で実質的なコストが高まることがあるため、総合的なコストを考慮せねばなりません。
役員報酬の増額や賞与の前倒しなどの節税策は、給与所得に応じた社会保険料の計算に影響し、法人負担分や個人負担分が増えるケースがあります。節税効果と社会保険料負担の増減を比較し、手元資金やキャッシュフローに与える影響をシミュレーションしておくと安心です。
社会保険料は将来の年金や医療給付にも直結するため、短期的な節税効果だけで判断せず、中長期的な経営計画や従業員・役員の福利厚生も含めてバランスを考慮するとよいでしょう。
将来の納税額がかえって増えることもある
赤字の繰越控除や税額控除を活用しての節税は有効ですが、将来的な利益の変動や税制の変更によっては、結果として納税額が増えることがあります。例えば、繰越控除期間中に予想以上の利益が出た場合や、税制改正で控除対象が制限された場合には、当初見込んでいた節税効果が想定どおり得られない場合があります。
また、短期的な節税だけを優先して経費を増やすと、翌期以降の利益が減少し、法人税の負担が重くなるケースも少なくありません。節税策は、目先の税負担軽減だけでなく、中長期的な利益見通しや資金繰りとのバランスを考慮して計画的に実施することが重要です。
さらに、税額控除や損金計上の影響は、役員報酬や配当のタイミングにも関わるため、節税策を決定する際には経営戦略全体を踏まえたシミュレーションが求められます。こうした視点を持つことで、将来の予期せぬ納税負担を避けつつ、健全な経営を維持できます。
節税は正しい知識と計画で実現できる
法人の節税は、単に経費を増やすだけではなく、法律や会計ルールに沿った正しい知識と計画があって初めて効果を発揮します。今回紹介した20の節税方法はどれも法律にしたがった手段ですが、実務上の注意点や経営上の影響を理解せずに実施すると、かえって資金繰りを悪化させたり、税務調査で問題となったりする可能性があります。
そのため、自社の利益状況や資金計画に応じて、優先順位をつけて取り組むことが大切です。適切な会計処理や書類保存、将来を見据えた判断を行いながら節税策を実行することで、税負担を抑えつつ、経営の安定や成長につなげられます。正しい知識と計画を持って、法人税の節税に取り組んでみてください。ただし、各制度の適用要件や税務上の判断は複雑な場合があるため、実施にあたっては税理士などの専門家に確認しながら進めることが望ましいでしょう。