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決算早期化と投資家保護の関係と日本の決算早期化の状況は?

昨今、日本企業における不祥事が頻繁に発生しており、投資家の知見を損ねる事態が続いています。
不正会計事件や有価証券報告書虚偽記載など、ディスクロージャー(情報開示)を巡る問題が後を絶ちません。

このような背景を受けて、投資家保護を目的とした制度改革が進められています。
そして、投資家保護の立場から、東京証券取引所も企業に対して決算早期化を要請しており、日本企業においては徐々に決算早期化が進められてきました。

そこで本記事では、どのような制度改革を経て、どのように決算早期化が進展していったのかを解説します。
そして決算早期化を進める課題やその他のポイントについてもお伝えしていきます。

目次

  1. 投資家保護を目的とした制度改革
  2. 日本における決算早期化の進捗状況
  3. 決算早期化の影響と課題
  4. さいごに

1.投資家保護を目的とした制度改革

証券取引法は、1948年に日本における金融商品市場の公正性と透明性を確保し、投資家保護を目的として制定された法律です。

その後、金融商品の多様化や市場の国際化に伴い、幾度も改正が行われました。
2006年には全面的に改正され、「金融商品取引法」として再構築されました。
従来の有価証券だけでなく、さまざまな金融商品について開示制度、取扱業者に関する規制を定めることにより、投資家保護の徹底を目指した法律となりました。

2014年にはインサイダー取引規制の改正も行われ、上場企業に限定されていた規制対象を拡大し、未上場企業の株式なども対象に追加されました。

2008年には、投資家が企業の最新の業績や財務状況を把握しやすくするため、四半期報告書制度が導入されました。
しかし、2023年の改正により、速報性を維持しつつ、企業の開示負担を軽減するため、四半期決算短信に一本化されました。
よって、企業は質の高い情報提供に専念でき、投資家保護の強化に繋がると期待されています。

このような法改正が進む中で、次のようなものが各企業に影響を与えることとなりました。

内部統制報告書制度の導入

内部統制報告書とは、企業の内部の管理が正しく機能しているかを経営者が客観的に評価し、その結果を開示する書類です。
これにより、企業内部の境界を強化し、不正防止の取り組みが促進されています。
内部統制報告書は現在、上場企業に提出が義務付けられています。

内部統制報告書制度に基づいて業務プロセスが見直されることで、決算プロセスの効率化に繋がります。
特に、決算に必要なデータ収集やチェック体制が改善されるため、決算早期化が実現しやすくなります。

また、内部統制が強化されることで、データの正確性が向上し、決算時にエラー修正や再集計にかかる時間が削減されます。

決算短信の制度化

決算短信とは、上場企業が投資家や株主に向けて、自社の業績や財務状況を速報的に報告するために作成する短期的な財務報告書のことです。
通常、四半期ごとや年度末に作成され、企業の経営状況をいち早く公表することを目的としています。

決算短信は、1974年に東京証券取引所などの証券取引所のルールとして制度化されました。
当時、上場企業の財務情報の開示は決算公告が中心でしたが、決算公告だけでは情報提供の頻度や内容が十分ではありませんでした。
そのため、四半期ごとの業績を速報的に開示する仕組みとして、決算短信が採用されました。

2008年には金融商品取引法が改正され、四半期報告書の提出が義務化されたときには、決算短信が四半期報告書と内容が重複するため、「二重負担」が指摘されました。
その結果、2023年の改正で四半期報告書が廃止され、決算短信が業績開示の中心としての役割を再び強化しています。

この決算短信の作成を効率化・早期化することで、企業全体の決算早期化が促進されることにより、企業は投資家との信頼関係を強化し、さらに競争力を高めることができます。

決算早期化への対応

上場企業は、決算決算日から45日以内に決算報告書を提出することが義務化されています。
また、年間の有価証券報告書も、決算期末後3か月以内に提出すること求められています。

そして東京証券取引所は、決算短信(速報版)の開示を30日以内としており、2007年度以降、そのフォーマットの簡素化や早期化が進められています。

2.日本における決算早期化の進捗状況

2008年の金融商品取引法の改正では、四半期報告書の法定提出期限を45日とした改正が行われ、これにより多くのトップ企業が決算早期化を達成できるようになりました。

2004年から2008年の5年間で、3か月期決算短信の発表日は平均44.6日から40.2日に短縮されています。
同様に9月中間決算短信では44.8日から39.8日へ短縮されています。
また、2007年3月期では73.3%、2008年3月期では86.2%の企業が45日以内に決算発表を行うことができています。

さらに、2023年11月の金融商品取引法改正では、2024年4月1日から四半期報告書制度が廃止されました。
上場企業はこれまで四半期ごとに四半期報告書を提出していましたが、改正後は第2四半期終了時に半期報告書を提出することになっています。
また、四半期ごとの業績開示が証券取引所の規則に基づく四半期決算短信に一本化された結果、四半期決算短信の重要性が増し、内容の充実が求められるようになりました。

しかし、現在でも決算短信の発表は平均40日程度かかる企業が多く、「30日開示」の目標達成にはまだまだ時間が必要です。
完全な決算早期化にはまだ課題が残っているのです。

3.決算早期化の影響と課題

決算早期化の進展することにより、日本の企業では以下のような変化が見られています。

経理の業務フローの効率化

前述の四半期報告書の廃止により、企業の作成業務の負担が軽減されることが期待されています。
また、四半期決算短信への一本化により、投資家への情報提供が迅速化される可能性があります。

そのため、内部監査や決算対応の強化が必要になるため、企業内部の経理の業務フローが見直されています。

開示の質と透明性向上

決算短信などのフォーマットが、統一や簡素化されることで、情報開示の質が向上しています。

コスト増加と負担

早期化への対応には人員やリソースの増加が必要であるため、中小規模の企業にとっては負担が大きいことが課題として挙げられています。

4.さいごに

日本企業では、情報開示が強化され、投資家保護が進められていると同時に、決算の早期化も進められています。
ただし、完全に投資家の保護を達成するには引き続き企業の努力が必要です。
そして、企業全体の回復と市場の透明性向上のために、継続的な取り組みが求められています。

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